失われた自分を求めて

元公務員/元フリーター/元ニート/アラサー/思いは言葉に

文書がなくなり、情報共有が遅れる行政の裏側

暖かくなってきましたね。この時期になると、啓蟄(けいちつ:冬眠していた虫が出てくるころ)という言葉を思い出し、待ち遠しくなります。
ジジイじゃないよ。アラサーだよ。アラサトです。

タイトルのとおり、内側をお話しします。踏み込みます。
文書改ざん、統計ミス、桜を見る会の名簿廃棄などを見ても、それほど驚きません。まあ、そりゃそうだよねってかんじ。

行政のITシステムは、約20年前の状態とご承知おきください。

やっとメールが使えるようになった。
でもやっぱり電話が安心だし、FAXって便利だよね。
ぴーでぃーえふ?いやいや、紙にハンコ押さないとだめだよ。

今日は、そんなデジタル・プリミティブ(IT原始時代)の世界のお話。


非デジタルはあちこちに、枚挙にいとまがなさすぎる

いろんな省庁の人から聞いた話を一部書きます。これでもほんの一部。

  •  基本的にスマホは貸与されない
    外勤中に連絡を取らなければならない場合、私用携帯・私用スマホしかない。個人のメールアカウント、なんならLINEでやりとり。そんな国あるんでしょうか?

  • モバイルPCはモバイルではない
    事務所で使うノートPCは、実質は据え置きPCと変わらない。外に持ち出すどころか、省内会議ですらPCを持参して議事録を取っている人はほぼ見ない。手書きでメモして後でワードに起こす。
    (経産省の友人は持ち歩いていたので省庁にもよる)

  • 宛先にメールアドレスを手打ちする
    省内の人であれば宛先に氏名をいれたら自動でアドレスが表示されたと思います。しかし、他省庁の人や地方自治体の人とはデータ共有してないので、アドレス手打ちです。47都道府県の担当者に送るときは、47アドレスを手打ち。行政機関同士なのに。

  • メールボックスがいっぱいになる
    一瞬でメールボックスがいっぱいになり、要らないメールを削除するよう通知が表示される。森友問題の時だったか、財務省でも容量オーバーで古いメールから削除されていくと聞いて、どこも同じなのかと思った記憶がある。

  • メールより電話
    地方の出先機関にいた人によれば、外部の人とメールでやりとりしたのは、年に数回。通信手段はもっぱら電話。本省でも、国会議員事務所とは電話がキホン。

  • FAXと郵送の嵐
    出先機関の話パート2。自治体などの行政機関はもちろん、同じ省の別の出先機関とのやりとりすら紙の郵送。だから情報共有も遅くなる。FAX送信先を間違えて一般人に送っちゃったら?郵便局員が中を開けちゃったら?気持ちで「親展」のハンコを押している。

  • 業務関連のシステムが乱立
    業務の案件管理システム、旅費関連のシステム(出張精算など)、給与関連のシステム(給与明細を見る)、文書管理と電子決済システム、配車システム、統計関連のシステム。しかも、それぞれのシステムで発注業者が異なることも多々ある(競争入札が原則で任意の相手方と契約できない)。使う側は、それぞれのIDとパスワードを忘れないようにするだけで一苦労。

  • 部外者が本省の執務室に入ってこられる
    まず、保険のおばちゃん。昼休みになると、ナチュラルに執務室に入ってナチュラルに勧誘してくる。あのおばちゃんは公務員なのか。機密文書見られたり、取られたりしたらどうするんだろう?あと記者。記者クラブが上階にあるんですが、入ろうと思えば自由に各階の執務室に入れるんだが。そんな国あるのでしょうか??

  • 文書がなくなっても誰も気づけない
    基本的に紙をリングファイルに綴って管理。PCの共有フォルダの中はぐちゃぐちゃ。だから、文書を探すのに時間がかかる。「隠してるんじゃないのか」と言われるが、見つけ出すのはけっこう時間がかかる。さらに言えば、どさくさに紛れて文書をシュレッダーにかけたり、共有フォルダ内のファイルを削除したりする人がいても誰も気づかないだろう。


なぜこんなことになっているのか

当然の疑問だと思います。理由を考えてみました。

  • 予算がつかない
    公務員全員にスマホを貸与するために、○○億円の税金を使う。
    そう聞いて納得がいきますか?なんで、そんなことに税金を使うのか。公務員だけスマホが持てるのはおかしいではないか。ぼくの敏感な耳にはそんな批判がはいってきます。
    「行政のIT化」という問題に、国民も議員も目を向けてこなかった。なんなら、ラクをするな、テクノロジーに頼るなと反対してきたのではないかと。行政側もIT化が国民にもたらすメリットを示せていない。

  • 仕事の相手がIT化されていない
    三権分立の残り二つ。国会と裁判所。この二つは、デジタル・プリミティブ同盟の盟友と言ってもいい。「FAX」「郵送」「直接会って話す」といった従来のやり方が最も安心安全という幻想を抱いている。あとは、政府の審議会に呼ぶ有識者のおじいちゃんでメールアドレスを持っていないとか、そういう場合もある。
    すると、せっかく電子化しても、結局プリントアウトしなければならず、作業が増えることになる。だったら今のままやってればいいね、となってしまう。クラウドで書類を共有なんて、夢物語というかSFの感覚なんだろう。

  • IT改革しても評価につながらない
    業務効率化のためにがんばっても、あまり報われない。敵は多い。作業も多い。その割にボーナスが増えるわけでもない。やらないよね。昔のまま、今のままがベストではないが一番ラク。だから変わらない。

  • 情報漏洩への恐怖心
    付け加えるとすれば、データで管理することへの恐怖心を持っている人が多い。行政の中も、一般国民も。実際にデータ流出のニュースも聞く。便利になるかもしれないけど、なんか危なそうという感覚が動きを鈍らせているのかも。


ではどうすればいいのか

「情報」をどのように整理・共有・保管するか。
これは、IT化にとどまらない意外に大きい問題なんです。公文書の管理、国会議員と行政機関の関係、競争入札など契約のあり方、公務員の評価制度などなど。
心が折れそうだけど、諦めずに考えてみました。

  • みんなで行政のIT化を応援する
    まず、公務員が効率的に働く=ラクをしようとしている、という思い込みを捨てる。
    たとえば、スマホを持てば、日頃の連絡や緊急対応が円滑になるだけでなく、移動の隙間時間にメール対応や事務作業ができる。すると、空いた時間で別のことをする「余裕」ができる。この「余裕」を生み出すことは非常に大事。「余裕」があれば、児童相談所の職員が子どもを追い返すことはなかったかもしれない。「余裕」があれば、役所の窓口でもっと丁寧に柔軟に対応できるかもしれない。無駄な作業が減るだけでなく、良質な行政につながると思います。

  • 一気通貫の文書管理システム
    文書管理システムについて言えば、「文書の作成」「編集」「決裁」「電子署名付文書の発行」「保存」「照会」といった公文書関連のあらゆる作業が一つのシステムでできることが理想。語句検索してすぐに見つけられれば、より素早く正確に情報公開請求に対応できる。職位で閲覧権限を分けることで、セキュリティを高めることができる。保存文書が事後編集されたら通知が来てトレースできれば、改ざんに気づくことができる。なにより、大量の行政文書を廃棄せずに、アーカイブして後に意思決定を検証することができる。

  • 全行政機関共通データベース
    さらに欲を言えば、行政機関は全てつながってほしい。「つながる」というのは、職員録みたいなもので検索すれば氏名や部署が分かり、電話番号とアドレスが表示され、アドレスをポチっと押すとメールが作成されてやりとりできる、というもの。議員・裁判所・省庁・自治体全て。それだけで、行政の仕事のやり方は大きく変貌すると思う。


批判が目的ではありません。本気で変えたいし、変わってほしい。税金は嫌でも払わなければいけない。どうせ払うなら、よい行政とよい未来のために使われることを切に願っているかんじです。

すんごいマジメにぶっちゃけトークしたので、今日はおしまい。


arasato.hatenablog.com